遠隔診療先進国の米国では、既に年間150万人の患者が遠隔診療を利用

Editorial team MICIN

日本でも多くの人がスマホを持つことが当たり前になった2015年の夏、厚労省から事務連絡が出され、遠隔診療の実質的な規制緩和が行われました。少子高齢化、疾病構造の変化や経済成長の鈍化を背景に、2015年6月30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」、いわゆる「骨太の方針2015」に遠隔医療の推進が盛り込まれてから、約1ヶ月後の出来事でした。遠隔診療を含めたICT技術を活用した手法により、医療資源を効果的・効率的に活用することが期待されています1

一方で、遠隔診療の先進国であるアメリカではオバマ大統領の主導のもと、2010年3月23日に「オバマケア」と呼ばれる健康保険制度改革、アフォーダブル・ケア・アクト(ACA)が施行され、アメリカ国民の医療保険加入率の上昇が促されてきました。高騰する医療費と医療保険の加入コストが原因で、無保険者の数が増えていることがその背景にありました。

2016年には、高齢者医療保険制度“Medicare”で遠隔診療が保険償還されるようになったのを機に米国での遠隔診療は急速に普及し、2015年には150万人が利用し、2016年には195万人、2020年には785万人以上が利用すると見込まれています23。遠隔診療でMedicareが適応されるようになり、Medicareによる償還方式が改革推進されてきました。それによって「オバマケア」の基本理念である医療品質の向上、医療コストの低減、新たな消費者保護の実現、医療サービスへのアクセス保証を目指しているようです45

アメリカでは遠隔診療に対する投資家の注目も高く、オンデマンド医療サービスへの投資は2017年に10億ドルに達する見通しです6。 ICT技術を活用したイノベーションの波が、医療業界にも押し寄せつつ有るようです。

臨床現場での遠隔診療の効果としては、主にプライマリケア、精神疾患、生活習慣病、救急医療の現場でのエビデンスがあります。治療の質、効率、継続性が上昇することによって、患者側は死亡率の低下やQOLの上昇などの点で大きな便益を享受しているようです7

米国医師会では「Measure Up/Pressure Down hypertension campaign」と呼ばれる、高血圧の持病のある患者に対し、血圧などのバイタルデータを遠隔装置で測定し、モニタリングすることで迅速かつ適切なアドバイスや治療の提供が推進されています。その結果、2015年には患者の70.9%で血圧のコントロールに成功しており、また医療者の負担も削減されるという目覚ましい結果がみられました。高血圧には肥満や運動不足を筆頭に、コントロール可能なリスク要因が数多くあることから、米国医師会は2016年には80%のコントロール率を目指しているといいます89
また、米国ヘルスケア企業のBanner Healthでは償還対象になる以前から遠隔診療の可能性を見出して、先進的に取り入れてきました。医療コストのかかる慢性患者に対し、遠隔デバイスを用いたバイタルデータの記録と診察を行うことで、27%のコスト低減に成功しています4
2016年5月の調査では、遠隔診療を活用して患者を診察したことがある医師は全体の15%程度でしたが、90%の医師が遠隔診療に対しての興味を示していました。実際の利用にあたっての障壁は、具体的な使用方法や、どの疾患へ適用するか、導入費用への懸念などが上げられました。それらが解消されれば使用してみたいとの意見が多く見られました10
米国同様に日本でも、今後は遠隔診療に対する注目度とニーズは更に高まっていくことが予想されます。そう遠くない未来には、対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせた治療方法が、普及しているかもしれません。

1 : 日本経済新聞: 遠隔診療、事実上解禁「ソーシャルホスピタル」へ前進
2 : Wall Street Journal: How Telemedicine Is Transforming Health Care
3 : Tractica: More than 78 Million Consumers Will Utilize Home Health Technologies by 2020
4 : Health Affairs Blog: Six Big Trends To Watch In Health Care For 2016
5 : U.S. Depertment of Health & Human Services
6 : Forbes: オンデマンド医療サービスが急成長、ウーバーやリフトに次ぐ勢い
7 : Agency for Healthcare Research and Quality
8 : Measure Up/Pressure Down
9 : Healio: Pilot monitoring program significantly improves BP control
10 : Graham Center : Family Physicians and Telehealth: Findings from a National Survey

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