オンライン診療とは(2017年12月公開)

Editorial team MICIN

 厚生労働省が2015年8月に出した通知以降、医療業界を賑わせているオンライン診療。テレビや雑誌といった多くのメディアで特集されています。

国内でもさまざまなサービスが登場しており、2018年はより一層注目されることが予測されます。

 この記事では、そんなオンライン診療について「そもそもオンライン診療って何?」といった基本的な疑問や「制度的には大丈夫なの?」といった一歩進んだ内容など、オンライン診療について紹介していきます。

今回は

1.オンライン診療の位置付け

2.オンライン診療の歴史

の2部構成でお送りします。

1.オンライン診療の位置付け

オンライン診療の定義

 オンライン診療とは、『テレビ電話や、電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等のビデオチャット機能を使い、インターネットを介して医師が診療を行うこと』を指します。ITが発展し医療のあり方も大きく変わりつつあります。バスや電車に乗って、医療機関に行き長い待ち時間を耐え、やっとの思いで呼ばれた診療はほんの数分。そのような経験をされたことがある方はほぼ全員と言ってもいいほどにいます。わかりやすく言えば、そんな通院がスマートフォンやタブレットを用いて自宅や仕事場でできるのがオンライン診療です。オンライン診療サービスcuron(クロン)では、現在でもすでに(疾患に制限はあるものの)処方せんや医薬品も処方してもらえるサービスを展開しております。

・オンライン診療にも2種類ある

さきほど説明したオンライン診療には大きく分けて2種類あり、

医師同士をつなぐ「Doctor to Doctor (D to D)」

②医師と患者をつなぐ「Doctor to Patient (D to P)」

に分けられます。(この二つについては以前の記事に詳しくまとまっています。)

2015年の通知により盛り上がりを見せているのが②のD to Pのオンライン診療ですが、国内でも複数のサービスが存在しております。弊社のクロンもこの通知後にできたサービスです。

 

オンライン診療に類似される言葉

オンライン診療とは意味は異なりますが、類似して捉えられる用語に以下のようなものがあります。

遠隔医療

 全国の大学や医療機関従事者により構成される日本遠隔医療学会があります。この学会は「遠隔医療(Telemedicine and Telecare)とは、通信技術を活用した健康増進、医療、介護に資する行為」と定義しています。

スマートフォンなどを用いて行われる遠隔診療だけでなく、電子カルテといったインターネットを利用するものも遠隔医療に含まれるといってもいいでしょう。最も広義に使われている言葉になります。

遠隔医療相談

 一般的に医師などの医療従事者が遠隔に医療の相談を行うことを指します。医療行為を行わない範疇で、医療機関を受診すべきかどうかなどをアドバイスすることに留まります。公的な資格が必要というわけではないのですが、看護師や社会福祉士といった方が相談員をされていることが多いです。遠隔医療相談は遠隔医療に含まれますが、あくまでもアドバイザーとしての立場であり、医師のみが行える診療とは異なります。

 

  遠隔医療と遠隔診療は同じものとして思われている方もおられると思いますが、厳密にはイコールではないんですね。また、遠隔医療相談をサービスとして提供してる会社も多くありますので、自分の目的にあって”診療”なのか”相談”なのか適切に選ぶことが重要です。

2.オンライン診療の歴史

 次にオンライン診療が解禁になるまでの変遷を見ていきたいと思います。日本のオンライン診療の歴史は長く、平成9年12月24日(西暦1997年)に厚生労働省による通知に始まります。1997年と言えば日本でもインターネットが一般に普及し始めた頃ですが、すでにこの時期にはICTを用いた診療が可能なのか議論がなされていたことになります。スマホが普及していない時代ですので、技術的に可能なのかも議論されていたことだろうと思うのですが、法律面での議論も開始することになります。ここで重要になってくるのが医師法第二十条「診療」について定めた法律です。

 

医師法第二十条

医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付(中略)してはならない。

 

この条文では「診療」は医師のみが行える行為だと述べているのですが、そもそもICTを用いた診療が法律上”診療”と認められるのか議論されていました。万が一、法律上認められない場合、医師法第二十条に抵触したとして医師法違反になってしまいます。この1997年の通知では、オンライン診療が診察に該当するのか、について、厚労省が公式に言及したものです。

※なお、当時はオンライン診療を指して「遠隔医療」という言葉が使われていました。2018年の診療報酬改定に伴うオンライン診療料の新設をきっかけに、オンライン診療実施にあたってのガイドラインが作成され、以降は「オンライン診療」という呼称で統一されています。

 

平成9年12月24日の情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について

基本的考え方

情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について

診療は、医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。

医師法第二〇条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第二〇条等に抵触するものではない。

留意事項

(一) 初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること。

(二) 直接の対面診療を行うことができる場合や他の医療機関と連携することにより直接の対面診療を行うことができる場合には、これによること。

(三) (一)及び(二)にかかわらず、次に掲げる場合において、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこと。

ア 直接の対面診療を行うことが困難である場合(例えば、離島、へき地の患者の場合など往診又は来診に相当な長時間を要したり、危険を伴うなどの困難があり、遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難な者に対して行う場合)

イ 直近まで相当期間にわたって診療を継続してきた慢性期疾患の患者など病状が安定している患者に対し、患者の病状急変時等の連絡・対応体制を確保した上で実施することによって患者の療養環境の向上が認められる遠隔診療(例えば別表に掲げるもの)を実施する場合

通知をまとめると、

・対面診療に代替しうる程度の情報が得られるならばオンライン診療は医師法第二十条にすぐには抵触しない

・初診と急性期の疾患は原則として対面診療を行わなければならない

・離島・へき地の患者、または別表に該当する慢性疾患患者で病状が安定している場合は、対面診療と組み合わせた上でのオンライン診療の実施が可能

ということになります。

 

医師法第20条には抵触しないとしながらも、

①別表に掲げる慢性疾患の内容が限定的なものなのか

②離島、へき地の患者や慢性疾患患者の場合でも初診は対面診療なのか

などと疑問点が多く、オンライン診療が都市部などで普及するには至りませんでした。

オンライン診療の状況が大きく動き出したのはそれから18年後にあたる2015年でした。1997年の通知に関して、以下のような追加の通知が発表されました。

 

平成27年8月10日の情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について

1.平成9年遠隔診療通知の「2 留意事項(3)ア」において、「直接の対面診療を行うことが困難である場合」として、「離島、へき地の患者」を挙げているが、平成9年遠隔診療通知に示しているとおり、これらは例示であること。

2.平成9年遠隔診療通知の「別表」に掲げられている遠隔診療の対象及び内容は、平成9年遠隔診療通知の「2 留意事項(3)イ」に示しているとおり、例示であること。

3.平成9年遠隔診療通知の「1 基本的考え方」において、診療は、医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本であるとされているが、平成9年遠隔診療通知の「2 留意事項(3)ア」又は「2 留意事項(3)イ」に示しているとおり、「2 留意事項(1)及び(2)」にかかわらず、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこととされており、直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではないこと。

 

まとめると、

・慢性疾患患者、離島、へき地の患者、というのは一例であり、都市部の患者にも利用可能である

・オンライン診療は、直接の対面診療を実施した上で行わなくてはならないものではない

ということになります。

 

 2015年以降、オンライン診療を適切に用いれば都市部の患者も対象になりました。これを皮切りに、企業や医療機関によるさまざまなオンライン診療サービスが登場することになります。

そして、2016年4月に日本初のオンライン診療アプリケーションとしてクロンがリリースされました。

 

その翌年2017年には、オンライン診療に関するこれまでの通知を明確化した平成29年7月14日情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)についてが通知されました。

こちらの内容を踏まえ、2017/12/15現在の解釈としては、

・テレビ電話やSNSなどの情報通信機器で得られる情報をもとに診療することは医師法第二十条等に抵触しない

・急性疾患は原則として対面診療での診察が必要

・慢性疾患は対面診療とオンライン診療を組み合わせによる診察が可能

・禁煙外来はオンライン診療で治療が完結してよい

となります。

 上で見てきたように、法律上の解釈ではオンライン診療は解禁ということになりました。しかし、法律がクリアすれば全部OKかと言われればそうではなく、医師の受け取る診療報酬上の制度が整備がされていないことや、遠隔から安全に治療できるか疑問が多いとする人も少なくないことから解決しなくてはならない問題が山積みです。

次の記事ではそんな問題の一つ「診療報酬」をテーマに扱います。

 

参考

1.「日本遠隔医療学会・遠隔医療とは」<http://jtta.umin.jp/frame/j_01.html>

2.「平成9年・情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」<http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/johoka/dl/tushinki01.pdf>

3.「平成27年・情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」<http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094451.pdf>

4.「平成29年・情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」<http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/iryou/20170906/170906iryou07.pdf>

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