遠隔診療にはDoctor to Doctor と Doctor to Patient の2種類が存在
2015年8月の厚生労働省の通知から、注目度が更に高まっている遠隔診療ですが、そのサービスは実は多種多様です。ここでは、代表的な例として、医師同士をつなぐ「Doctor to Doctor (D to D)」と、医師と患者をつなぐ「Doctor to Patient (D to P)」を見ていきましょう。
D to Dの遠隔診療は、これまでも専門医と一般医の間での診断・治療のための情報交換の場として活用されてきました。例えば、皮膚疾患の画像やCT画像をその領域の専門医と共有することで、専門医へのアクセスが難しい患者に対して、より正確な鑑別診断に基づいた治療を可能にしてきました1。
一方で、 制度上の理由から、今までD to Pの遠隔診療の活用は限定的でした。今回の厚生労働省の通知を機に、より拡大していくことが予想されています。今回はD to Pの遠隔診療サービスが幅広く展開されている米国の事例をご紹介します。
米国では2009年に施行された医療改革、通称「オバマケア」以降、様々な企業が遠隔診療サービス市場に参入しています。各プレーヤーをまとめた図が次のとおりです。
ご覧の通り「遠隔診療に完結したサービス」の分野で、米国における代表的な遠隔診療のプレーヤーがひしめいてます。TelaDoc(http://www.teladoc.com)、MDLIVE(https://welcome.mdlive.com)、American well(https://www.americanwell.com)などが主な企業です。これらの企業は24時間体制で米国全土に対して、医師による遠隔診療サービスを提供しています。患者はアプリやWebを通じ、いつでも医師とビデオ通話やメッセージのやり取りをすることが出来ます。
TelaDocは近年業界トップシェアを誇ってきましたが、American wellでは患者が医師を選択できるシステムを導入しており、他の企業との差別化を図っています。遠隔診療への注目と期待が高まり、競合間の競争が激化する中、2015年6月にはAmerican wellが強豪のTelaDocを特許侵害で訴えました。しかし、この裁判はAmerican wellの敗訴におわっています2。また、MD LIVEはHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)に準拠しているため、信頼性が高いと評価されやすいでしょう。
これらを追いかけるのがDoctor On Demandです。このサービスの特徴は知名度の高さです。”The Doctors Show”と呼ばれる人気テレビ番組に出演している有名医師Dr.Philの息子が設立した会社で、テレビでの宣伝が噂を呼び、大手投資家たちの注目も集めています。その話題性から、主に若い女性をターゲットにし、利用可能地域や時間を限定して、医師や心理士の診察を提供しています。この分野では、SaaSの雄Sales Force3やSnap MDと連携したコニカミノルタ4など、次々と大手が持ち前の技術を駆使したプラットフォームを提供し始めているという点でも目が離せません。
引用:Techcrunch記事
遠隔での医療相談も、広がりを見せている
参入企業が増加している近年、遠隔診療導入へのハードルを下げる努力をしている企業も見られてきました。患者に遠隔診療を身近に感じてもらう工夫として「遠隔医療相談」という形をとっている会社がいくつか見られます。First Opinion(https://firstopinionapp.com)はその代表例です。「遠隔医療相談」という形で初回メッセージのやり取りを無料にすることで、遠隔診療の浸透に貢献しています。このサービスでは必要があれば相談後に有料で診療も受けることが可能です。アンケートに答えた上で、医師と患者をマッチングさせるというサービスもFirst Opinionならではのサービスです5, 6。
また、大手のヘルスケアQ&A掲示板を運営するHealth Tapもそのデーターベースを用いて、多くの患者の医療相談にのっています。その後、有料会員になれば登録医師による遠隔診療を受診できます。登録医師の評価もできるようになっていて、医師の報酬は評価と歩合制で決定されます7。対して、医師側が導入しやすい工夫をしたサービスを提供している会社もあります。30以上の対応言語を揃え、国際性に富んだTreat MDは医師目線でのスケジュールや値段設定をすることで、医師側がリスクゼロで導入できるようにしています8。
米国では州ごとに法律が異なるため、州によって利用できるサービスが異なるのも特徴的です。利用可能地域を限定することで、より発展的なサービスを提供している企業もあります。Kaiser PermanenteとPagerが挙げられます。Kaiser Permanenteは4つの州に限定することで、オンライン診療だけでなく、最寄りのKaiserの施設で看護師など医師以外の医療従事者が医師からの遠隔指示によって医療措置を行うシステムを導入しています9。Pagerはオンライン診察を行った後、患者の状況によって必要であれば2時間以内に往診するシステムです。救急医療に特化した医師が多く登録していて、午前8時から午後8時までで、NYでのみ利用可能です。
メンタルケア・カウンセリングサービスも遠隔で便利に
その他にも心理カウンセリングメインでサービスを提供しているTalk space、blah therapy、7 Cups of Teaや、医師の自動留守番電話サービスによるトリアージを可能にしているRingadocは医師不足や医療費コストの削減に貢献し、今後の医療問題解決に一役かっていくのではないでしょうか。
このように遠隔診療先進国の米国では多くの企業が遠隔診療・遠隔医療の分野に参入しており、医師と患者との関わり方が急激に変化しています。遠隔医療先進国である米国の状況は、今後も目が離せないでしょう。
1 : 遠隔画像診断の歴史は古く、セコムを始めとして多くの企業がサービスを提供しています。皮膚画像を用いたサービス例としては、exMedio(https://exmed.io/)が挙げられます。
2 : MedCityNews: American Well loses patent claim against Teladoc, plans appeal
3 : Healthcare IT News: Salesforce debuts telemedicine for Health Cloud
4 : Healthcare IT News: Konica Minolta launches telemedicine pilot with SnapMD
6 : MashableAsia: This App Lets You Ask A Doctor A Question
7 : Forbes: HealthTap Offers Uber-Like Service For Seeing A Doctor
8 : PR Newswire: Telemedicine Startup TreatMD.com Aims to Redefine On-Demand Healthcare
9 : Modern Healthcare: Innovations: Kaiser tests video visits to cut waits