「オンライン診療を通じて医療へのアクセスをもっと便利に」

社会医療法人石川記念会HITO病院

愛媛県四国中央市にあるHITO病院は、「いきるを支える」をコンセプトに現理事長である石川賀代先生が、父親が創設した石川病院を引き継いで開院した、地域医療や救急医療を担う中核病院です。今回は石川先生と、総合診療科医長の五十野博基先生に昨今の新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえたオンライン診療導入の経緯や今後の展望について伺いました。
オンライン診療の導入を検討し始めたのはいつごろでしょうか?
4月頃に検討、5月11日より運用を開始しました。元々ICTの基盤が院内にベースとしてあったので、オンライン診療に関しても今後どこかで開始しようと考えていました。新型コロナウイルスの感染拡大が広がっていく中で、非対面・非接触型の外来診療は、今後この地域が感染拡大した場合に備えて、準備しなければならないと思います。

どのような流れで意思決定が行われましたか?

導入を検討するチームメンバーは多職種に渡っていて、医事課・サポートセンター・医師・DX推進課と、オンライン診療に関わる部署のスタッフを集めて実施しました。新型コロナウイルスが特に関東地方で流行していたこともあり、検討は速やかに行いました。
もともと院内にiPhoneやiPadは揃っていたので、オンライン診療もその端末を活用して実施することを念頭においていました。まずはICTに苦手意識のない医師を中心に、初診外来など一部から開始したことで、導入までのプロセスは比較的スムーズでした。

電話での再診ではなく、オンライン診療を導入した理由を教えて下さい。

電話再診は電話を繋ぐだけなので、抵抗感が少なく必要最低限で終わるという点ではよいですが、初診を行うとなると、電話では得られる情報量に限りがあります。しかし、オンライン診療であれば、視診による情報も得ることができ、診断精度の向上や患者の満足度向上にも繋がると考え、オンライン診療を導入することにしました。

オンライン診療のベンダーの選定について教えて下さい。

2020年4月頃に3社ほど比較検討してクロンに決めました。汎用システムはそもそも考えておらず、クロンをはじめとしたオンライン診療専用システムのなかで検討しました。クロンを導入したのはコスト面の部分が大きいです。また、webでの説明にも関わらず、担当の方が痒いところに手が届く説明をしてくださったのでとても分かり易かったです。新型コロナウイルスが急速に拡大していたこともあり、当院としても早急に導入したいと考えていたため、素早く対応していただけたこともクロンを選んだ理由の1つです。

オンライン診療を導入するにあたっての障壁はございましたか?

当院は全体的にITリテラシーが高く、基本的に1人1台支給されているiPhoneを活用し、Zoomを用いた多職種カンファレンスなども既に実施しており、ビデオ通話は使い慣れていました。そのため、医療提供側は比較的スムーズに導入が進んだと思います。
しかし、患者側のハードルは少し高いかなと感じています。アプリを登録したり、当日ビデオ通話をしたりするには、ある程度のITリテラシーが必要となり、患者さんによっては操作が難しい場合もあると思います。またクロン自体の支払い方法がカード決済のため、新たなアプリにカード登録をするのに抵抗感がある方も少なくないのではないでしょうか。

オンライン診療以外のICTの取り組みについて教えて下さい。

絆プロジェクトの一環として地域の医療機関や開業医の先生方と連携し、放射線画像を共有しています。患者さんの基本データ・検診データ・外来の検査データ等を共有するようなアプリや、患者さんが自身の血圧等のデータをアプリで管理できるようなツールも提供しています。
新型コロナウイルス感染症対策という観点では、発熱外来を受診した患者さんに対し、タブレットで事前問診をする取り組みを開始しました。対応する看護師は患者さんとは別室で、iPadにてビデオ通話を行い、スクリーニングを実施しています。

どのような患者さんにオンライン診療を活用していますか?

2020年7月時点では、循環器内科・脳神経外科・総合診療科・内科にて活用しています。腰が痛い、肌荒れ・体重が増えてしまったなど、医療相談のみの患者さんもいます。処方を伴う診療をした場合は、事前に患者さんに薬局を指定してもらい、そこに処方箋をFAXで送って対応しています。

オンライン診療のメリットとデメリットを教えてください。

電話再診に比べ、オンライン診療は診療の質が向上すると思います。また、仕事で忙しい方や、なかなか治療が継続できない患者さんに対しては治療継続の一助となると考えています。車で1時間ほどかけて通院される患者さんもいらっしゃるので、そういった方々には往復時間や待ち時間などがなくなり、機会損失が減少する点もメリットとしてあげられると思います。
一方で、オンライン診療は対面と比べて利便性は向上しますが、システムの登録や受診後のやりとりなどは私たちが想定していた以上に患者さんにとって大変なようでした。また対面とは違い、同じ空間が共有できないので、その場の空気感やボディーランゲージを見逃すような誤診のリスクも否定できません。ビデオ越しで患者さんに物事を伝える方法、質問の仕方、目線の置き方など、対面診療とは異なる工夫が必要になってきます。

今後オンライン診療を適用していきたいケースについて教えて下さい。

オンライン診療は感染症予防と患者の利便性向上が大きなメリットだと思います。後者は介護や仕事で忙しい人が、健康診断を受けた後の二次検診を受診できていない場合の足がかりとなったり、要介護の方で付き添いが必要な方、遠くからいらっしゃる方に便益があると思います。また、生活習慣病の定期受診には検査が必要ない受診回もありますので、オンライン診療を織り交ぜることで、患者の治療継続につながるでしょう。
例えば、企業健診によりHbA1cが高いことが判明した方で、時間内に受診が難しい場合に、栄養指導や医師の診察がオンラインでできるようになるとよいと思います。特に栄養指導は奥さんがいるタイミングで話ができると、普段料理をしている奥さんに指導ができるため効果的だと思います。
また、当院に関連するクリニックや介護系の施設では、継続した投薬のために施設職員が患者を車に乗せて通院することもあります。行き帰りで1時間程度かかる施設もあるので、そういったところでオンライン診療を使って変わりがないかを確認して投薬するのもよいと思います。もちろん患者さんの状態が悪いときにはオンラインでは難しいですが、使い分けは十分可能だと思います。

オンライン診療は今後どのように展開していくとお考えですか?

現状、オンライン診療はまだ浸透していませんが、今後世の中にオンライン診療が浸透すれば、医療機関側の診療精度も上がり、患者側もこういうときにオンライン診療を使ったら便利だといった知識も増えてくると思います。政府の後押しもあるので、コロナがきっかけとなり、オンライン診療は進んでいくと予想しています。病院に直接受診できないが心配なときに相談できることは、かかりつけ医が果たすべき重要な役割と考えます。もっと頻繁に様子を確認したい場合にもオンライン診療による介入は有効です。オンライン診療を通して、医療へのアクセスがより便利になることを期待しています。

Clinic Information

  • 社会医療法人石川記念会HITO病院
  • ホームページ:http://hitomedical.co-site.jp/
  • 住所:〒799-0121 愛媛県四国中央市上分町788番地1
  • 電話番号:

Doctor Profile

理事長 石川賀代 先生

1992年東京女子医科大学卒業、同年東京女子医科大学病院消化器内科入局。大阪大学微生物学教室非常勤講師を経て、2002年医療法人綮愛会石川病院に入職。内科医長、副院長を務め、2010年に理事長 病院長に就任。2013年より、医療法人綮愛会石川病院が社会医療法人石川記念会 HITO病院 へと新築移転により名称変更。2019年4月社会医療法人石川記念会理事長、石川ヘルスケアグループ総院長に就任。現在に至る。
【専門医・資格】
日本内科学会認定総合内科専門医
日本肝臓学会認定肝臓専門医
日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会認定消化器指導医
医学博士

総合診療科 医長 五十野博基 先生
2008年筑波大学卒業後、筑波大学附属病院総合診療グループに所属しながら、2018年3月に筑波大学大学院で医学博士を、2020年3月に名古屋商科大学ビジネススクールで経営学修士を取得した。病院から患者さん、医療者、地域を笑顔にしたいという夢の実現に向けて、2020年4月より「いきるを支える」をコンセプトにしたHITO病院に夫婦で赴任して、現在に至る。
【専門医・資格】
日本内科学会認定総合内科専門医
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医
日本集中治療医学会認定集中治療専門医
医学博士
経営学修士(MBA)