【オンライン診療×ピル処方】低用量ピル・アフターピルの事例・症例のご紹介

Editorial team MICIN

 今年の春、診療報酬の改定で一部が保険の適用対象となったこと、また指針として「オンライン診療の適切な実施のためのガイドライン」も策定され、日本でも本格的にオンライン診療が始まりました。

 対面診療と比較した際のメリットとしては、「院内待合室の混雑緩和」や、「通院負担が減ることによる患者満足度の向上」などのほか、「患者の心理的負担の軽減」も挙げられます。

 例えばAGA(男性型脱毛症)の治療や美容整形など、自由診療に分類される悩みを抱える患者の中には、クリニックに行くところを人に見られることに抵抗を感じ、それが心理的障壁となって通院を負担に感じる方もいます。オンライン診療という選択肢を用意することで、こうした患者の心理的な通院負担を減らすことができます。

 今回は「オンライン診療とピル」をテーマに、上記のような自由診療の中でも、月経困難症の治療や避妊を目的とした低用量ピルの処方に焦点を当て、オンライン診療の実際の導入事例と症例をご紹介します。また、アフターピルも同様にオンライン上で処方することに関して、実施している医療機関と厚生労働省など双方の意見をまとめてお伝えします。

1.オンライン診療と低用量ピル

1-1.導入事例

 弊社のオンライン診療サービスcuron(クロン)を実際にご利用いただいている2つの医療機関へのインタビュー記事本文から、オンライン診療を導入したきっかけと、導入後のクリニックへのメリットを抜粋してご紹介します。

 

ポートサイド女性クリニック ビバリータ・清水ほなみ院長1

(記事リンクはこちら:【curon導入インタビューNo.006】)

<導入のきっかけ>

「ピルを継続服用なさっている方が、忙しくて受診できずに欠薬してしまい、その間に希望していない妊娠をしてしまったというケースを経験して、ピルの欠薬を防ぎたいという思いからオンライン診療を導入しました。ピル服用者の対象年齢的に、お仕事をなさっている方や学生さんが多く、定期受診が難しいケースが多々あります。その方たちにより便利にピルを活用していただきたくて遠隔処方を導入しました。」

<導入のメリット>

「費用面でのメリットが大きいと感じました。知り合いでオンライン診療を検討している先生にご紹介しています。」

 

桂川洛西口産婦人科まりこクリニック・馰野真理子院長2

(記事リンクはこちら:【curon導入インタビュー014】

<導入のきっかけ>

「遠方から通院されている方や、引っ越しなどが理由で当院から離れてしまった方に対して、かかりつけ医として寄り添いたいという思いから、オンライン診療を導入しました。」

 

<導入のメリット>

「通院が難しい方に対して、薬の処方だけでなく、相談に乗れることが良い点です。インターネットでピルを購入することもできますが、そこには医師の指導がありません。飲み忘れた場合の対処方法や、飲み方を変えたい場合に、相談窓口となることで、女性の悩みに寄り添うことができると思っています。」

 

1-2.患者症例

 過去にクロンをご利用いただいた患者は、オンライン診療によってどのような利点を実感されたのでしょうか。ここでは、実際にオンライン診療を実施している医療機関から寄せられた症例から、オンライン診療を利用するきっかけとなった背景と、利用する中での経過をご紹介します。

10代女性(月経困難症)のケース

<背景>生理痛がひどく、ピルを処方されたが、部活等で忙しいことや通院を人に知られたくないという思いがあり、利用を開始。

<経過>当初の対面での診療では緊張が見られたが、スマートフォンの利用に抵抗がない世代というのもあり、ビデオ通話ではリラックスした様子。定期的な服薬により生理痛も軽減した。「同じ症状で悩む友人にも紹介したい」との声。

20代女性(月経困難症)のケース

<背景>通院の時間が取れずピルを切らしてしまい、以前は服用を諦めていた。オンライン診療では薬も家に届けてもらえると聞き、利用を開始。

<経過>「スマホで簡単に予約でき、待ち時間もないので便利。産婦人科に通院していることを人に知られたくないので、オンラインで処方が終わるのはありがたい。」との声。

 

2.オンライン診療とアフターピル(緊急避妊薬)

 アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊を失敗した場合や、性被害を受けた時の為に使用されるピルです。女性がやむを得ず避妊ができなかった際に服用することで、妊娠を回避する事が可能になります。

 現状、アフターピルは患者が直接対面で医師の診察を受けることでしか入手できません。ただし、処方を行なっている医療機関へのアクセスが難しかったり、地元の産婦人科に出入りすることへの心理的抵抗などから、本当に必要としている人がアフターピルを入手することは容易ではないこともありえます。平成28年度の厚生労働省の調査によると、平成25年度の国内の人口中絶件数は約186,000件となっています3。この中絶件数の多さから、本当に必要としている人にアフターピルが届いていない可能性を指摘する医師もいます。

2-1.ネット上での不正取引

 実態として、インターネット上でのアフターピルの不正売買が横行している可能性があります。

 例えばTwitterで「アフターピル」と検索すると、「アフターピル売ります」「即日発送」「アフターピル〇〇円」など、アフターピルの取引を目的としたアカウントが多く見られます。直接医師の診察を受けるどころか、医師ですらない人がアフターピルの取引に関わっているのかもしれません。

SNSを通じてアフターピルが不正に出回っている

 

(追記:昨今では、アフターピルを違法に販売したことを理由にした逮捕者も出ています。
毎日新聞 2019/2/1 アフターピル無許可販売、容疑の男を逮捕 ツイッターで集客

 さらに、検索サイトで「アフターピル」と検索すると、病院に比べ安価であることから個人輸入代行サイトの利用を勧めるサイトも散見されます。しかし、こうした代行サイトで流通しているような国内で承認されていない海外の医薬品に関しては、偽物であっても仲介者の責任を問うことができず、購入して服用することは大変危険です。

厚生労働省は個人輸入代行業者の利用について、以下のような注意喚起を行なっています4

Q 個人輸入代行業者を介して海外から医薬品などを入手することは、薬事法上は問題ないですか。

A 最近、個人輸入代行と称して、外国製の医薬品や医療機器を広告して、それらの購入を誘引する仲介業者がいます。
 しかし、日本の薬事法に基づく承認や認証を受けていない医薬品や医療機器の広告、発送などを行うことは、違法な行為です。また、何かトラブルが生じても一切責任を負おうとせずに、全て購入者の責任とされます。
 こうした悪質な業者には、くれぐれもご注意ください。

 

2-2.オンライン診療でアフターピルを処方することの是非

 オンライン上で緊急避妊用のアフターピルの処方を開始する医療機関もあります5

「アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン処方を医師が開始 厚労省は「不適切」と警告するが…」

(ハフィントン・ポスト2018年9月14日付け記事より)

 こうした医療機関がアフターピルのオンライン処方に踏み切った理由には、上記のような現状を踏まえて「医師の処方のもと、適正なアフターピル入手のハードルを少しでも低くしたい」という想いがあるようです。

2-3.厚生労働省は「不適切」

 一方、厚生労働省は、アフターピルをオンライン診療で処方する医療機関に対し、下記引用のように「不適切」だとする見解を示しています5

(…)厚労省医事課の担当者はハフポストの取材に対して「不適切な事例の可能性もある」と説明する。

ガイドラインの目的は、安全なオンライン診療を普及させることなど。基本理念などでは、「原則として初診は対面診療で行い、その後も同一の医師による対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められる」と記載されている。一方で「例外として患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合など」に限っては「許容され得る」とも書かれており(…)

 

処方を開始した医療機関は今回の件が上記の「例外」に当たると判断し、厚生労働省は「例外には当たらない」との立場を取っているようです。

 

 そもそも、アフターピルのOTC化(市販薬化)は以前から検討されていましたが、関係医学会からの反対を受けて2017年の厚生労働省の検討委員会によって見送られています。反対意見の論拠として、

・OTC化を進めるにあたり、現状では性教育が不十分。経口避妊薬の普及率が高く、緊急避妊薬にも慣れている諸外国と比較すると、日本の若者は知識も経験も少ない。避妊の成否は月経から女性自身が判断せざるを得ず、妊娠に気づくのが遅れる可能性がある。

・避妊効果はあるが性感染症を防ぐ効果はないので、簡単に避妊できるのをいいことに避妊具の使用が減った結果、性感染症の罹患リスクが高まるのではないか。

・月に何度も処方を求める女性もいる。アフターピルの処方と同時に、産婦人科学的知識の豊富な医師による性教育を行うことが欠かせない。OTC化では男性による悪用も考えられる。

・安易な使用が広まる。

 このような意見が挙げられています。これらの意見を踏まえ、最終的な結論として、今の日本では「時期尚早」ということでまとまっています。

 

2019年より、厚生労働省が「アフターピルのオンライン処方」についての検討開始

厚生労働省は1月23日、第1回「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」を開きました8 。開催の背景としては、不適切なオンライン診療の事例が報告されていることから、指針の不明瞭な点の明確化や遵守すべきルールの理解を深めることで、より適切なオンライン診療の実施を目指す意図があります。この検討会は5月まで開かれ、今年中に指針とそのQ&Aが改定される予定です9

 アフターピルに関しては、検討会の実施にあたって日本オンライン診療研究会から意見・要望が提出されており、その中には以下のような意見も見られます10

緊急避妊薬について初診からオンライン診療が可能と解釈している医師がいるが、初診対面診療の原則から外れていいのか、明確にする必要があるのではないか。

今回の検討会では、アフターピルのオンライン処方を「初診は対面診療」原則の例外と認めるか否かについて解釈の明確化も図られる見通しです。

 

 

3.まとめ

 低用量ピルについては、オンライン診療を活用することで、患者の通院負担を軽減するほか、医療機関側にとっても患者の悩みに丁寧に寄り添いながら治療を継続できることなどの利点があり、今後も利用が進むことが予想されます。

 アフターピルについては、医療機関や厚生労働省の立場から様々な議論がある一方で、検討会の開催を通じて厚生労働省が解釈の統一化に乗り出す動きを見せています。今後もアフターピルのOTC化やオンライン処方に関する動向があり次第レポートして参ります。

 

 

1【curon導入インタビューNo.006】
2 : 【curon導入インタビュー014】
3厚生労働省「平成25年度衛生行政報告例の概況」
4 : 厚生労働省「医薬品等の個人輸入に関するQ&A」
5 : HUFFPOST NEWS 2018年9月14日「アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン処方を医師が開始 厚労省は「不適切」と警告するが…」

6厚生労働省「第2回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」資料5-1
7 : 厚生労働省「第2回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」議事録

8 :厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」
9 :厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針に関する見直しに関する検討会」資料1「オンライン診療の適切な実施に関する指針」見直しの背景と検討会の方向性
10 :厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針に関する見直しに関する検討会」資料3 黒木構成員提供資料