前回は主に米国で遠隔診療サービスを提供している企業についてご紹介しました。遠隔診療の普及に伴い、生活習慣病等の慢性疾患だけでなく、精神科や急性期の患者もサービスを利用するようになってきています。その際、重要なのが、患者の状態を、医療従事者が適切に把握することです。
今回は、より安心・安全に遠隔診療を利用してもらうために、様々な検査デバイスや検査用ソフトウェアを活用し、医療従事者が、遠隔で患者の状態を把握するサポートをしている企業をご紹介します。
医師が把握すべき情報は多岐に渡る
医師が把握すべき患者の情報は多岐に渡ります。中でも血圧や脈拍の測定、血糖値や肝機能を把握するための血液検査などは、慢性疾患の患者の健康状態を把握するために欠くことのできないプロセスです。このような測定や検査は、治療を継続する限り、継続的・定期的に行う必要があります。
通常は患者が来院した際に、医療従事者が測定や検査を行います。中には、通院せずに患者の健康状態を把握したい、というニーズが存在します。例えば、勤務時間などの関係で、平日に来院することが難しい40-50代の働き盛りの患者や、脳卒中の予後の患者、統合失調症のような精神疾患を抱える患者などが挙げられます。
こうしたニーズを満たすため、患者自身が身につけるデバイスや、スマートフォンのアプリとして、患者の状態を把握できるサービスが注目され始めています。こうしたサービスは下図のように整理できるでしょう。
高血圧の治療の際に、家庭血圧を把握するためウェアラブルデバイスが活用されている
疾病領域ごとに、注目すべき技術を順にご紹介していきます。まず、高血圧の患者には欠かせないのが、血圧測定のためのデバイスです。2016年1月のCES2016にて、オムロンヘルスケアはスマホにデータを転送して記録できる「超小型手首式血圧計」や「本体・カフ一体型上腕式血圧計」を開発中であると発表しました。1。フィリップスも同様の「時計型血圧計」を販売しています2。更に日本大学では位相を用いた技術で非接触性の血圧計を開発中のようです3。特別なデバイスを必要とせず、スマートフォンのカメラを用いて血圧を計測できるようになれば、患者自身による血圧管理が簡単になり、高血圧を治療中の患者にとっては朗報です。
高血圧を治療中の患者に対して、血圧測定デバイスを活用して、日々の測定結果を見える化することで、血圧をうまくコントロールできるようになった事例がいくつか報告されています。厚生労働省の健康日本21キャンペーンや、米国医師会と製薬会社の第一三共がタッグを組んだMeasure up/Pressure downキャンペーンが代表的な例でしょう。血圧の測定方法がより簡単になることで、より多くの高血圧に悩む患者が、適切に血圧値をコントロールできることが期待されます。
さらに、Measure up/Pressure downキャンペーンではHeart Health Mobileと呼ばれるアプリを提供しています。身長・体重・年齢・血圧・コレステロール値を入力することで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクをチェックし、必要であれば最寄りの病院を案内してくれます。基礎疾患としての高血圧を適切に管理することで、より重篤な疾患も予防できることが期待されます。
糖尿病患者の治療では、自己採血により検査をするデバイスが活躍
糖尿病や高脂血症の患者にとって、負担が大きい検査の一つが血液検査です。従来は、病院で注射器による採血が主でした。現在では侵襲性を低下させるための様々な工夫がなされており、自宅での血液検査が可能となっています。
例えば、血液検査キットのDEMECALは指先に細い針を指し、そこから血液を採って、検査会社に郵送して検査をしてもらうことができます。検査項目は多岐にわたり、得られる情報は院内で行われる血液検査と大きな差はありません。さらに、検査自体を自宅で可能にしたのが、Corです。まず、使い捨てのカートリッジを用いて腕から針で一滴だけ血液を採取します。このカートリッジをリーダー(読み取り器)に入れると、スマホに結果が転送されます。現在米国で目標以上の資金集めに成功しており、実用化に期待ができます4。
I型糖尿病患者の場合は毎日血糖値を計測する必要があり、もっと手軽に測定できる必要があります。血糖値の測定デバイスとしてRoche社のACCU−CHEKは医療機関でも広く普及しています。新型のACCU−CHEKではスマホと連動することによってデータの管理、通知なども行ってくれるようになりました5。
引用元Medgadget記事
さらに、Googleはワイヤレスチップとグルコースセンサーをコンタクトレンズに埋め込むことによって、涙から血糖値を測定する技術を開発し、スマートコンタクトレンズの実用化に向けて動いています6。Abbott社のFreestyle libreはファイバーを皮下に埋め込むことで、センサーを無痛で取り付けることを可能にしました。それによって間質液のグルコース濃度をセンサーから読み取ることで血糖値を測定できるというシステムです。このデバイスはセンサーを身体に取り付けたままなので毎回の針の痛みから解放されることと、読み取り機をかざすだけなので手間が解消されるという点で患者への便益があるとされています7。
引用元Today’s Medical Developments記事
韓国のベンチャー起業BBB社では、Elemarkというデバイスを提供しています。このデバイスはスマートフォンに接続して使用する使い捨て血液検査紙で、様々な血液検査を可能にしています8。
引用元BBB社
糖尿病と同様に血液検査が必要な脂質代謝異常症の患者のために生み出された技術も革新的です。北大発のベンチャー、メディカルフォトニクスではLEDの光を用いてその反射光で血中の中性脂肪濃度を測定することが出来ます9。
次回の記事では、より重篤な疾患である、不整脈や脳梗塞の予後、COPDや精神疾患などに活用される検査デバイスや検査用ソフトウェアをご紹介します。
1 : ITmedia Healthcare: スマホと連携する腕時計サイズの血圧計、オムロン ヘルスケアが開発中
2 : mobihealthnews: Philips launches health watch, connected scale, blood pressure monitor and Bluetooth thermometer
3 : 日経デジタルヘルス:「10年後には圧迫帯無しの血圧計が主流になる」、日本大学の尾股定夫氏
4 : CNET Japan: 血液検査は自宅で毎週する時代に–家庭用のスマート血液検査システム「Cor」
5 : medGadget: Roche Unveils Accu-Chek Guide Blood Glucose Monitoring System
6 : Tech Crunch: Google、製薬大手のNovartisと提携―血糖値測定コンタクトレンズなどを5年以内に実用化へ
7 : NewsHub: New glucose test for diabetics could end painful pricks
8 : The Bridge: スマホで血液検査できる体外診断デバイス「Elemark」を開発する韓国スタートアップBBB、シリーズAラウンドで約5.1億円を調達
9 : NewSwitch: 動脈硬化撃退!10時間程度拘束、10回前後採血をなくす脂質測定器