PMDDはどう治療する?使用される漢方薬についても解説
- 【読み】 ぴーえむでぃーでぃー
- 【呼称】 ‐
生理前になると「イライラ」や「気分の落ち込み」といった精神的な症状が強く出て、辛さを感じることはありませんか?
その症状はもしかしたら「月経前不快気分障害(PMDD:Premenstrual Dysphoric Disorder)」という精神疾患かもしれません。
PMDDは、適切に治療することで症状を軽減することができます。
今回は、PMDDの概要や、医療機関で行われる治療法について解説します。
PMDDについて
PMDDとは、いったいどのような状態なのでしょうか。何が原因で症状が出るのでしょうか。辛い症状をケアするために、まずはPMDDについて正しく理解しましょう。
PMDDとは
月経前症候群(PMS)は、生理の3~10日前から続く精神的、身体的な症状のことで、生理が始まると共に症状が和らいだり、消失したりするのが特徴です。
PMSの諸症状のうち、精神症状が主体でより症状が重い場合にPMDDと診断され、月経がある女性の1.8~5.8%が該当するとされています。
PMDDの症状
PMDDの症状は、憂うつな気分、不安や緊張、情緒不安定、怒り、イライラといった日常生活に支障をきたす程の重い精神的な不調です。
PMDDの診断基準としては、米国精神医学会(APA)の「DSM-5」が用いられます。医師による問診で自覚症状や日常生活への影響の程度、症状が毎月繰り返されているかなどを確認したうえで診断が行われます。
具体的な診断基準としては、
- 著しい感情の不安定性
- 著しいいらだたしさや怒り、または対人関係の摩擦の増加
- 著しい抑うつ気分や絶望感、または自己批判的思考
- 著しい不安、緊張および/または“高ぶっている”や“いらだっている”という感覚
のうち1項目以上、それに加えて
- 通常の活動における興味の減退
- 集中困難の自覚
- 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
- 食欲の著しい変化、過食または特定の食物への渇望
- 過眠または不眠
- 圧倒される、または制御不能な感覚
- ほかの身体症状(乳房の圧痛または腫脹、関節痛または筋肉痛、感覚の違和感、体重増加)
の11項目のうち5項目以上の症状がみられ、その症状により明確な苦痛をもたらされたり、社会活動の妨げになったりしていることが診断の目安です。
また、これらの症状がうつ病やパニック障害といった他の疾患によるものではないことも確認したうえで、PMDDと診断されます。
PMDDの原因
PMDDの原因はまだはっきりとは解明されていませんが、生理周期と連動して症状が出ることから、女性ホルモンの変動に関連があると考えられています。
排卵のある女性の場合、PMDDの症状が出る生理の3~10日前 は「黄体期」と呼ばれる期間に該当します。黄体期には、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」が多く分泌されます。黄体期の後半になると卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌が急激に低下し、脳に存在する神経伝達物質やホルモンに異常をきたします。これにより、PMDDの症状が現れると考えられています。
また、これらの女性ホルモンが、感情に関わる神経伝達物質に影響を及ぼすことでPMDDの症状が現れるのではないかという説もあります。
そのほかの原因としては、外的なストレスや重大なライフイベントが発症に関連していることも判明しています。例えば、対人関係における外傷体験や季節の変化などが、PMDDを発症する環境的な要因となりうるという研究結果があります。また、マタニティブルーや産後うつ、反復性の大うつ病,双極性障害といった精神疾患の経験がある場合は、そうではない場合と比較して、PMDDを発症しやすいという研究結果も出ています。
ほかにも、マグネシウムやカルシウムの不足がPMDDの発症に関係している可能性があるともいわれています。
PMDDの治療方法
明確な原因が解明されていないPMDDですが、さまざまな治療法で対処できる疾患です。
適切に治療することで、生理前の精神的な不調から解放され、ぐっと過ごしやすくなることもあります。
症状に合わせた対症療法
PMDDでは、精神的な症状と合わせて「身体的な症状」が現れることも多く、頭痛、腰痛、胸部・腹部の張り、むくみ、便秘といった症状がよくみられます。これらの症状を緩和するために、鎮痛剤や下剤、利尿剤などを使用した「対症療法」が行われる場合があります。
低用量ピルによる治療
低用量ピルは、排卵を抑制することで、女性ホルモンの変動を少なくすることを目的とした薬です。女性ホルモンのバランスが急激に変化するのを抑えることで、PMDDの症状を改善すると考えられています。
近年は、卵胞ホルモン薬の「エチニルエストラジオール」と黄体ホルモン薬の「ドロスピレノン」が配合された新しいタイプの低用量ピルが、PMDDの症状をより軽減し、生活の質も改善するとの報告があり、頻繁に使用されています。
漢方薬による治療
PMDDに対しては、漢方薬の有効性も報告されています。
漢方薬はその人の根本的な「体質」に働きかけることができ、副作用も少ないため、産婦人科の領域で使用される機会がよくあります。
PMDDの治療に用いられる漢方薬としては、以下の7種類が代表的です。
- 抑肝散
- 加味帰脾湯
- 加味逍遥散
- 当帰芍薬散
- 桂枝茯苓丸
- 抑肝散加陳皮半夏
- 桃核承気湯
漢方薬は効果が穏やかに出るため、即効性を求める場合には適していません。また、効果には個人差があるため、効く人には非常によく効きますが、全く効かない場合もあります。体質に合わないと、逆に症状が悪化してしまう場合もあるので注意が必要です。医師や薬剤師に相談したうえで、自分の症状や体質に合った種類の漢方薬を選ぶことが大切です。
抗うつ薬による治療
PMDDの症状が中等度以上の場合は、抗うつ薬による治療が検討されます。
特に「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)」に分類される抗うつ薬は、PMDDによる不安や緊張、抑うつといった症状を和らげる効果があることが知られています。SSRIはうつ病や不安障害の治療薬として普及している薬ですが、PMDDの治療薬として産婦人科学会でも推奨されています。
抗うつ薬は基本的には毎日服用し、効果が出るまで2~4週間かかるのが一般的です。しかし、PMDDの治療では排卵後~月経終了までの期間限定で服用する使用法もあります。うつ病や不安障害に対してSSRIを使用する場合と比較して、少量の服用で早くから効果が得られるのが特徴です。
PMDDとオンライン診療の相性
PMDDは精神的な症状が主であり、オンライン診療と相性が良いとされています。オンライン診療には、医療機関への通院が精神的に負担となってしまう場合の治療継続や、自宅での様子を把握できるというメリットがあります。
また、PMDDの治療で薬物治療を継続するためには、定期的に通院し医師の処方を受けることが不可欠です。PMDDに悩む年代の女性は学業や仕事など日々の生活で忙しく、思うように来院の時間を作れない場合もあります。オンライン診療は、こうした通院負担の軽減にも役立ち、薬の処方だけでなく飲み忘れた場合の対処方法や、飲み方を変えたい場合の相談窓口としても活用できます。
PMDDへの対処法としては、医師に相談することで心を落ち着かせ、安心感へとつなげることが大切です。また、自分の症状がPMDDだと気づき、受け止めることにより、気持ちが楽になる場合もあります。気になる症状がある方は、気軽に医療機関に相談してみましょう。
参考文献
PMSとPMDDの違い | PMS(月経前症候群)ラボ
https://www.otsuka.co.jp/pms-lab/about/pms_pmdd.html
女性の体や心の不調 それってPMS(月経前症候群)かも? 産婦人科医 武田 卓先生|達人コラム|花王 くらしの研究 (kao.co.jp)
https://www.kao.co.jp/lifei/column/67/
月経前不快気分障害(PMDD) (げっけいまえふかいきぶんしょうがい) | 済生会 (saiseikai.or.jp)
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/premenstrual_dysphoric_disorder/
月経前不快気分障害はお薬や精神療法などの治療があります|ひだまりこころクリニック名駅エスカ院,精神科,メンタルクリニック
【執筆者】
薬剤師:大西真理
ドラッグストア併設調剤薬局の薬剤師。薬局長として薬局全体の管理、教育等に従事し、管理薬剤師としても活躍。広域病院から地域密着型クリニックまで幅広い内容の処方箋応需経験を持つ。
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