※この情報は2020年11月時点での情報です。制度などの情報については必ず公式発信情報をご確認ください。
【院内感染とは】
院内感染とは、入院中、病院の中で病原体にさらされて感染してしまうことをいいます。細菌やウイルスなどそれぞれ潜伏期間は異なりますが、概ね入院してから3日間以降に発症したものを院内感染と判断しています。
・院内感染でみられる感染症
入院しているひとは、健康な人に比べて免疫力も低下、感染しやすい人が多い状況です。院内感染でよくみる病原体に黄色ブドウ球菌(MRSA、VRSAを含む)や緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌、セラチア、カンジダ、ニューモシスチス・カリニ、インフルウイルスなどがあります。日和見感染といって、普通の健康状態では感染しない病原体でも院内感染を起こしてしまうのです。
院内感染は人から人、医療者やお見舞いの人を介して感染することもあれば、医療機器を媒介にすることもあります。感染の種類としては肺炎や尿路感染、カテーテル関連血流感染症が多くみられます。
・組織で感染を制御する
院内で感染対策を講じる組織を感染対策委員会、感染対策チーム(infection control team: ICT)とよびます。一定規模の医療機関ではICTが設置されており、医師、看護師、薬剤師、細菌検査技師、その他の事務などコメディカルで構成されます。
院内感染をゼロにすることは難しいですが、院内感染の発生をできるだけ防ぐこと、発生した場合の伝播を防ぐことにつながります。また、通常発生している以上の院内感染をアウトブレイクといいますが、日ごろから感染状況を把握することでアウトブレイクを早期に気づくことができるのです。
【院内感染を防ぐための予防策】
・標準予防策
感染防止対策の最も有効なものとして標準予防策、スタンダードプリコーションがあります。血液や喀痰、排泄物、胸水などすべての体液、分泌物、傷口や粘膜を介して感染する可能性があります。感染がわかっていない患者も含めすべての患者において感染の危険性を考慮して取り扱う必要があるという考え方が基本にあります。
感染を予防するための具体的な方法は手洗い、手袋、ガウン、マスクです。一見単純な予防策ではありますがこの標準予防策を行うことが院内感染を防ぐために重要です。
・感染経路別の予防策
空気感染、飛沫感染、接触感染の3つを念頭に感染経路の予防策を考えることが必要です。
1 空気感染
空気感染を考えなければいけないのは、麻疹、水痘、結核とその疑いがある患者です。予防策としては個室の陰圧室であること、必要時以外は部屋の扉は閉めておきます。
また、医療従事者は入室時にN95マスクを装着する必要がありますし、患者が部屋をでる必要がある婆愛にはサージカルマスクを装着させるのです。
2 飛沫感染
インフルエンザやマイコプラズマ肺炎、百日咳、乳幼児のアデノウイルス感染症やA群溶連菌感染症などの診断や疑いがある場合には飛沫感染策をおこないます。
個室管理をすること、1m以内に接する場合にはサージカルマスクを着用することや患者が個室を出る必要がある場合にはサージカルマスクを着用させることが必要です。
3 接触感染
空気感染をしない多剤耐性菌の感染、または保菌の場合でも接触感染予防策を考えなくてはいけません。
個室管理をすること、医療者は病室に入る前に手指消毒と手袋とガウンの着用、部屋を出るときには手袋とガウンを外し、手指消毒をする必要があります。患者が部屋の外に出る必要がある場合には患者が触れる場所は覆うようにします。
【院内感染がおきたときの対処】
・抗菌薬を適切につかう
世界的に問題となっている薬剤耐性の問題から抗菌薬を適正に使うことは重要視されています。
政府が2016年に薬剤耐性(antimicrobial resistance, AMR)対策アクションプランを公表、感染症学会からも2017年に「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」が出されています。
また、CDCや米国感染症学会が「薬剤耐性を防止するための12のステップ」を提言しています。
Step5 抗菌薬の使用を標準化すること
Step6 疾病や病院ごとの薬剤感受性データの使用する
Step7 血液培養を適切に評価し、コンタミネーションには抗菌薬を使用しない
Step8 常在菌にたいしては抗菌剤を投与しない
Step9 バンコマイシンの適正に使用する
Step10 感染が治癒した時点で抗菌薬の投与を中止する
*参考: CDC : Campaign to Prevent Antimicrobial Resistance in Healthcare Settings, The 4 strategies. CDC homepage(on line), Aug 28, 2002
上記はその一部の抜粋です
感染対策チームには院内感染を防ぐこと、抗菌薬の適正使用についても役割を担っています。
抗菌薬を適切に使用するためには、患者を把握すること、そして抗菌薬の使用をモニタリングし、必要に応じて主治医にフィードバックするというプロセスが耐性菌を広げない対策を担っているチームに求められているのです。
まずは、特定の抗菌薬の使用を届け出制、許可制にする、各種培養検査を提出するなど感染の兆候があることを確認して抗菌薬を使用する、高齢者や免疫抑制剤を使用しているなどの患者背景を把握します。
そのうえで、アンチバイオグラム、培養結果や画像診断結果から抗菌薬を選択、TDMなどを使用した用法用量の設定、2週間以上におよぶ長期投与での抗菌薬の中止や変更、投与経路を検討し直すなどが必要になります。
日頃からの感染症に対する院内教育や啓発なども抗菌薬の適正使用につながるのです。
・サーベイランスとアウトブレイク
感染力の強い病原体はアウトブレイクをしやすい感染症をひきおこします。アウトブレイクを起こしやすい病原体としてインフルエンザや風疹などの飛沫感染や結核、麻疹といった空気感染は患者から直接ひとにうつします。レジオネラなどのエアロゾル感染は空調やシャワー室で、MRSA,MDRP(多剤耐性緑膿菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、ESBL、クロストリジウム・ディフィシルといった接触感染は水回りや浴室といった患者が触る場所だけでなく、医療行為、医療器具を媒介にしておきてしまうこともあります。
日頃からサーベイランスをおこない院内の感染症の状況を把握しておくことで感染症の発生状況からアウトブレイクを早い段階で察知します。アウトブレイクが起きたときに速やかにICTにどのような態勢をとるのかを事前に対応を決めておくことが必要です。
【参考文献】
国、自治体を含めた院内感染対策全体の制度設計に関する緊急特別研究「医療施設における院内感染(病院感染)の防止について」
社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会栗橋病院「院内感染防止対策マニュアル H-1:抗菌化学療法の原則」
厚生労働省健康局結核感染症課「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」
日本化学療法学会雑誌「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」
医師:木村眞樹子
都内大学病院で循環器内科および内科として在勤中。 内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。 |