薬剤師不足の3つの原因と対策案

Editorial team MICIN

2006年に6年制の薬学教育がスタートし、薬学部の新設が急増したことから、薬剤師過剰時代が到来するという話は、一度は耳にしたことがあるかもしれません。

実際のところ、薬剤師数の現状はどうなのか、これから薬剤師という仕事の需要はどうなっていくのか、実際のデータをもとに分析していきます。

 

  • 薬剤師の求人倍率

2020年(令和2年)1月時点での薬剤師の有効求人倍率は4.76倍(※1)です。

有効求人倍率とは、公共職業安定所(ハローワーク)に申し込まれた求人数を求職者で割った値を表したものです。

1倍を超えて、高くなればなるほど仕事が見つけやすい状態を示しています。

2020年(令和2年)11月時点の全職種の有効求人倍率(季節調整値)は、1.06倍(※2)なので、薬剤師の需要は依然として非常に高いことが分かります。

 

  • 薬剤師不足の原因とは

薬学部の新設の影響で、新卒の薬剤師の数は年々増加傾向にあるにも関わらず、薬剤師不足が起こっている理由はどこにあるのでしょうか。

 

①医薬分業の推進、超高齢化社会

近年、医薬分業の急拡大により薬局やドラッグストアの数が急増し、薬剤師の必要数も増加傾向にあります。

特に、都市部よりも地方での薬剤師の不足が大きいといわれています。

 

②薬剤師免許の必要のない職場への就職

調剤薬局やドラッグストア、病院で働く薬剤師の年収は管理職に就かない限り、数年で頭打ちになることが多いです。

それに対し、製薬企業の年収は最初こそあまり高くはないものの、年次ごとに安定した昇給があり、将来的な年収は一番高くなることが多いです。

特にMRや研究開発職では年収1000万円を超えるという人もいます。

そのため、薬剤師の就職先としても一定の人気があり、薬剤師として働く人員の減少の一因となっています。

 

③薬剤師は女性が多い

薬剤師になる人の男女比は4:6で女性のほうが多いのが現状です。

そのため、女性特有のライフイベントである出産、子育てを機にパートタイム勤務や休職をする人も多くいます。

このように、資格を持っていても現場でフルで働かない薬剤師がたくさんいるため、資格保有者数の割には現場で働く人員の不足感が出ている状況です。

 

  • 薬剤師不足が深刻な地域

人口10万人当たりの薬剤師数は、全国平均で190.1人で、前回調査時より増加しています。

都道府県別にみると、多い地域は、1位:徳島県(233.8人)、2位:東京都(226.3人)、3位:兵庫県(223.2人)、少ない地域は、1位:沖縄県(139.4人)、2位:福井県(152.2人)、3位:青森県(153.0人)となっています。(※3)

 

  • 薬剤師不足による問題

薬剤師が不足している地域における問題点は、その地域住んでいる患者さんに対して十分な医療が提供できない可能性があること、また、そこで働く薬剤師が過重労働に陥ってしまうという点が挙げられます。

薬剤師が過重労働により退職してしまうと、さらに薬剤師不足が進んでしまうという悪循環に陥ってしまいます。

 

  • 薬剤師不足による問題を解消するための対策は?

①機械化

近年、薬剤師の業務は「対物業務から対人業務」への転換が進んでいます。

そこで、患者さんひとりひとりにきめ細かい薬学的管理を提供する時間を確保するために、自動調剤システムや監査システム、 など、薬局業務の機械化が加速しています。

 

②ファーマシーテクニシャンの導入

ファーマシーテクニシャンとは欧米において、薬剤師の指示に基づいて医薬品のピッキングなど調剤業務の一部を行うスタッフのことです。

日本においてはまだあまり馴染みのない制度ではありますが、厚労省は平成31年4月に「調剤業務のあり方について」(※4)という文章を通して、薬剤師以外のスタッフも実施可能な業務について言及しました。

処方箋に記載された医薬品(PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品)を取りそろえる行為や薬剤師の監査の前に行う一包化した薬剤の数量の確認行為など、専門的判断の必要のない業務をファーマシーテクニシャンが薬剤師の目の届く場所で実施することを認めました。

 

薬剤師不足が深刻な地域もそうでない地域も、「対物業務から対人業務」へ薬剤師の業務の在り方が変容してゆく今、今まで通りのやり方に固執しすぎるのは、時代の流れに逆行しているといえるでしょう。

 

  • 地方へ転職するメリット・デメリット

都市部に比べると、まだまだ地方の薬剤師が不足しているのが現状です。

薬剤師が地方へ転職するメリットとデメリットについてまとめました。

 

メリット

①好待遇である場合が多い

基本的に人手が足りないため、魅力的な条件を提示している薬局が多いです。

地方の薬局の平均年収は600万円以上といわれています。希望をすれば、好条件で転職しやすい状況にあるでしょう。

 

②患者さんと深く関わることができる

都市部に比べると高齢者人口が多く、交通網も未発達な地域が多いため、在宅医療や訪問看護の需要が多くあります。

医療従事者として、患者さんとの関係も密に取りやすい環境にあるため、じっくりと患者さんに向き合って仕事がしたいタイプの人には向いている環境かもしれません。

 

③地方ならではの趣味を充実させることができる

都市部に比べると自然が多いため、アウトドアの趣味を持っている人は休日のリフレッシュも充実させることができそうです。

 

デメリット

①生活が不便

交通網が未発達な地域が多いため、買い物や遊びの時に車が必要不可欠になったり、近くに友人が住んでいなかったりと、生活のしづらさが問題になってくる可能性が高くなります。

そのような生活になっても問題がないかどうか、具体的な所までしっかりと検討する必要があります。

②キャリアアップがしにくい

地域密着型の個人薬局や小規模チェーン店では、大手の薬局チェーンと比較すると、教育体制が整備されていない店舗も多いため、自分の目指す薬剤師像がある人にとっては魅力が薄く感じてしまうかもしれません。

自分の意欲次第でスキルアップはできるのか、成長のチャンスはあるのか、下調べはしっかりと行うのが望ましいでしょう。

 

  • まとめ

日本全体で見ると薬剤師はまだまだ足りていない状況であるということは事実ですが、年々有効求人倍率は下がっており、資格さえ持っていれば安泰という時代は終わりに近づいているといえるでしょう。

薬剤師個人のスキルやキャリアが今まで以上に重要視されていくのは間違いありません。

 

[参考文献]

※1 厚生労働省 「参考統計表8-1」

※2 厚生労働省 「一般職業紹介状況(令和2年11月分)について」

※3 厚生労働省 「01_H30統計の概要」3 薬剤師

※4 厚生労働省 「薬生総発 0402 第1号 平成31年4月2日 一般社団法人日本病院薬剤師会 会長 殿 厚」

 

【監修薬剤師】


薬剤師:大西真理

ドラッグストア併設調剤薬局の薬剤師。薬局長として薬局全体の管理、教育等に従事し、管理薬剤師としても活躍。広域病院から地域密着型クリニックまで幅広い内容の処方箋応需経験を持つ。